完全なるスクラム初学者が感じたスクフェス初参加の感想

3月16日に1day参加で 「Scrum Fest Kanagawa -春の陣- 」(通称スクフェス)に参加してきました。

この1年ほどはスタートアップのデータ領域の開発者をしていますが、前職時代は長い間データサイエンティスト職をしていました。そのためデータサイエンス系の勉強会イベントにはたくさん参加したり主催したりしていましたが、スクフェスは職種も違うしTLで眺める限りではノリもかなり違いそうだと思い参加を躊躇していました。が、結果参加してとても良かったです。(そして次回もきっと参加する!)

さすがスクラムを嗜好する人たちはイベント内の「コミュニケーション」にもとても気を使って設計されているんだろうなと感銘を受けることがあったので、表題のようなニューカマーが感じたフレッシュ(?)な感想を書いてみました。

アンチハラスメントポリシーの徹底がすごい

技術者の勉強会イベントでもハラスメント注意が厳しくなってきた昨今。そういう流れは知っていましたが、それでもこのイベントでは開会の一番最初に10minほどにわたってアンチハラスメントに対する強いスタンスを示されていることが興味深かったです。アンチハラスメントに当たる例、そういう場面を見たけたら周りの人はどう対応すべきかということを寸劇形式で説明されていました。「そこまでやるか」と思うほど丁寧な実施でした。

性的なハラスメントだけではなく、「スクラムのそんなことも知らないの?w」というような嘲笑もハラスメント対象となるということが説明され、破ったものは運営メンバーも含めて強制退場も辞さないということが念入りに説明されました。初めての参加者、スクラム経験の少ない参加者にとっても非常に安心して参加できる空気がイベント冒頭から醸成されたなと感じました。

カードまで用意されている

discordによるカジュアルさの可視化

スクフェスはchatがdiscordでやり取りされており、全国各地のスクフェスチャンネルを自由に覗き見ることができます。今回のスクフェス神奈川のチャンネルももちろん存在し、当日の発表が行われるのに並行してリアルタイムでかなりの流速で感想がつぶやかれ続けていました。頭に思い浮かんだ単語を反射的につぶやく, 短文の感想をつぶやく軽快な雰囲気があり、「賢いコメントをしなくては」というようなプレッシャーも一切ない雰囲気でした。地味にこういった”カジュアルさの可視化”が意見発信のハードルや会話のハードルを下げているなと感じ、参加者のイベントへのコミットメントを高めているようにも感じました。ツイッターハッシュタグにて同じようにコメントを求めるイベントもありますが、やはりdiscordはいい意味で「届かなくていい人に届かない場所」なので発言の気軽さが段違いだなと感じたり。

オープンスペーステクノロジーOST)というディスカッション形式が非常に効果的かつ面白い

OSTは僕の雑な理解でまとめるなら、「このネタで喋りたい人あつまれ〜〜〜」という自由議論の場なのだと解釈しました。複数の人が「これについて話したい」という好きなネタを発表し、それに賛同する人が適当に集まってグループを作り話を始める。これが複数ネタで同時並行で実施されるという感じ(どの時間にどのネタがどこで話されているかというのは時間割のようにボードに張り出されている)

テーブルが6個(ネタが6個)あるので各時間に興味のあるテーブルに参加する感じ

ユニークなのは、各議論の場に敢えてファシリテーターを用意せず、参加した人たちがリーダーシップをもって自分たちで場を作るということ。自己組織・自律性を求められています。しかし、会社の会議のように必ず発言を求められるわけではなく、「自分にとって学びがある」のであれば無言で参加し続けることをwelcomeとしているし、「自分にとって学びがない」と感じたらいつでも自由に別のネタテーブルに移っても良いというルールらしいです。OSTではその行動も公式に容認しているのでフラッと議論を離れても誰も咎めたり眉をひそめることもしないというルールです。

OSTであげられるネタは特にアジャイル的な内容に沿っている必要はなく完全に自由。イベント内では「ちょっと外に串焼きを食べに行くグループ」というのがあるほど自由でした(自由すぎて僕は最初戸惑いましたw)。一方で喧々諤々に「アジャイルマスターのベストプラクティスを共有するテーブル」もあるし、「初めてスクフェスに参加した人向けに”OST”とは何か」を説明してくれるテーブルもありました。特に後者のようなテーブルを自主的に用意してくれる人がいることこそ、初心者welcomeの精神が現れているスクフェスコミュニティーの良さだと感じました。

今回初めて体験したこのOSTという議論の形態をとても気に入ったのですが、一方で ”オープンスペーステクノロジー”という名前からこういった内容のコンテンツであることが1mmも想像できないのでなんだか名前で損してるな〜と思わなくもない笑

スクラムはエモさを許容する

「私の開発チームが最高なので紹介させてください!!」というLTがあるなど、スクラムが「チームでの達成・成長」を重視する所以なのか、スポーツチームのようなエモさが許容されている雰囲気を感じました。別の界隈から来た身としてはこれはなかなか面白い雰囲気だなぁと。

一般的な仕事の中や、会社の中ではなかなかこういったエモさは表立っては強調されない気がします(例えば、経営層が「うちの会社は最強なんです!!!」としきりに言っていたらなんとなく「大丈夫か?」という気もしてくる…個人の感想かもだけど。)

スプリントレビューをわざわざ会社の食堂スペースで行い、スクラムに関係のない社員でも覗けるようにしてフィードバックを広く得るというようなお祭りイベントにしているという発表もあり、そういった様子を見て「開発チーム、勢いがありますね〜」と社内に評判になっているらしいです。個人的にはそういったお祭りっぽいやり方は好みなのでいつか自分のチームでも真似してみたいなと思ったり😎

「現場」での話を「コミュニティー」でするメリットが大きい/ハードルが低い

例えば、データサイエンスの仕事ではデータは個社の機密度合いが高いのでなかなか社外で発表するハードルが高い。では、その回避策として話をうまく抽象化したりボカシたりして話すのはそれはそれで難しいスキルなので、上手い人じゃないと特に面白みのない一般論的な発表になってしまうことが少なくありません。

それに対して、スクラム界隈のこういったイベントでは、「スクラム」という背骨となるコンテクストを全員が持っているという前提を置きつつ、各現場でそれをどのように改造して上手くやっているか/独自の難しさがあるか というユースケース集として聞くことができるのでエンターテイメント性・学びがたくさんあり聞いていて飽きないのだなと思いました。コミュニティーで自分の現場の問題を話すことで、似た問題を経験した人が他の現場でのプラクティスを教えてくれそうです。現場↔コミュニティーの学びのサイクルがおそらく他の分野より回りやすい分野なのだと思います。今回のikuoさんのkeynoteのお話もそういった内容でした。エモい。

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スクラムのコミュニケーションメソッドとメンタリティーがインストール済みである人たちとの会話が心地よすぎる

スクラムフレームワークの中には「チームで仕事をする上で良いとされるコミュニケーション」のプラクティスが埋め込まれていると感じています。上手くスクラムが回るチームは、自然とメンバー間のコミュニケーションも互いに快適/効果的になり、「開発が楽しい」という状態になるそうです。

そういったコミュニケーションのプラクティスがわかっている人が集まるスクフェスでの会話は非常に心地よかったです。傾聴する, 相槌を打つ / 一人が話しすぎない, 話を振る / 過剰なコーチング, ティーチングをしない / 年齢や経験に対して区別をしない 等々。要素を挙げると白々しい感じもしますが、基本姿勢として「人との会話から学ぼう」というアグレッシブな姿勢が強いため、対話相手へのリスペクトと興味がベースにあることが大きな要因だと感じます。初対面の人と対話することが苦手な自分でも、1日中楽しく色んな人とおしゃべりできたのが何よりの証拠だと感じています。始まりから終わりまで心理的安全性が高いイベントでした。

終わりに

なんとなく外から見てると団結力が強そうなイメージがあり、内輪ノリ感も強いのかしらと(けっこう)心配していましがそれは杞憂で、初心者・初参加者に全力で配慮してくれる素晴らしいイベントでした。ただ、スクラムフェスは全国で開催されており、各都市ごとにカラーが違うらしいので特に今回の神奈川開催会が良かったのかもしれません。運営の方々に感謝。各地で雰囲気が違うからこそ全国のスクラムフェスを学会のように回っている人もいるそうです。運営メンバーも有志で行われており、全国を跨いで運営を助けている人がいて各都市で運営ナレッジを伝搬させているようです。コミュニティーがよく出来ている。

夕食兼懇親会の場では飛び入り参加でLT会なども行われ終始賑やかな雰囲気でday1は終わりました。当日の盛り上がりからも遠くない未来にまた神奈川会が開催されるだろうなと感じました。その時はまた参加して今度は自分の現場の学びをコミュニティーで発表したいと思います。

ビール飲みながらやるLTが一番楽しい

これくらいの人数規模が一番密度と熱量が高くて楽しい説

(余談。参加に至った背景)

おそらく今回の参加者の誰よりもスクラム初心者だったと思います。ちょっとそんな背景を。

もともと、アジャイル開発/スクラム開発 という言葉はもちろん知ってはいましたが、なんとなく「一部のエンジニア向けの開発手法だろう」と思い込みこれまでずっとスルーしていました。

転機は2023年末頃からで、転職後半年ほどが経過しプロダクト開発現場におけるタスクや組織の課題感が肌感覚でもわかってきた頃、仕事でコミットしているデータプロダクト開発にありがちな属人性の高さ、それ故の他者のタスクの見えづらさ、他者のコードレビューの難しさ, チームの強みが掛け算できていない感覚等 に困っていました。

しかしそれをうまく言語化したり説得力を持って訴える(他者を巻き込んで改善するムーブメントを作る)ことができないことに苦しさを感じていました。そもそもこれが自分のスキル不足が原因なのか(ただの弱音なのか)、チームの問題なのかが断定できなかったというのも大きかったです。

そんなときにTLでバズっていたikuoさんのRegional Scrum Gathering Tokyo(通称RSGT)スライドに出会いました。内容は、チームがぶち当たっていた問題そのものでした。

speakerdeck.com

我々のチームの問題が、ある種の「あるある状態」であることがわかり、スクラムとやらでそれを解決できるかもしれないことに一縷の希望を持ちました。ちょうど、他チームの人が社内でRSGT動画視聴会を実施されていて、このスライドの発表動画もチームメンバー数名と見て辛い気持ちとなんとかしないとなぁ(なんとかできるかもなぁ)という気持ちを共有できたことがスクラム導入検討のきっかけにもなりました。

スクラムが我々のデータプロダクト開発にfitするかを試す意味でも、一度 ”教科書通りのスクラム” を愚直に試してみようということになりました。4月からスクラムをスタートするべく、現在Sprint0を進めているところです。

ikuoさんのスライド以外にもRSGTで発表された他スライドは非常に参考になるところ多く、自身が開発チームに感じていたモヤモヤを見事に言い当てているぺージなどはスクショを社内のslackに投稿したりしていました(各社で行われていそうですね)。そんなときにTLでスクフェス神奈川が開催されることを知り、keynoteikuoさんだったことがフックになり参加を申し込んだ、というのが経緯です。(スクフェス神奈川に参加したのは、開発チームとして活動を開始して1週間目、スクラムマスターロールに興味があるのでやってみたいと宣言して1週間目のタイミングでした。正真正銘の初心者。)

day1の夜の懇親会にて、スクフェス神奈川主催のseigiさんから「まさにそういった人がきてくれるように開催時期やkeynoteゲストを選んだ側面がある」と懇親会で聞き、まんまとマーケティングにマッチしたのだなぁということを知りました。

僕がいま、僕にとって新しい概念である”スクラム”に胸を踊らせ、「すくらむってすげー!」期に入っていることを自覚しています。このあとダニングクルーガーよろしく坂を転げ落ち、「スクラムなにもわからん(真顔)」「スクラム?場合によっては効果的ですね…(真顔)」になることを楽しみにしています。なにか新しいことを学ぶって楽しいですね。

という感じで、コミュニティーにとても助けられたなという感覚があります。次回のスクフェスでは、「こういった経緯でスクラムを始めたチームがどうなったか」というリアル回顧録をコミュニティーに還元したいなと思っています!