プログラミングを覚えて4年越しに当時一目惚れしたアプリを作った話

エンジニアが作るサプライズ

「今までにインターネットで見た記事で印象的だったものは何か」みたいな話をするときに、自分はいつも2013年に書かれたこの記事を話に出す。

エンジニアやデザイナーの方々が、同業の友人の結婚式二次会のサプライズプレゼントとして、Twilioという音声APIを使って「結婚おめでとう」の声を届けるアプリを作ったというお話。「祝電2.0」とも表現されていた。

特定の電話番号に電話をかけ、自動応答システムと同じ要領でお祝いのメッセージを最大60秒のうちに登録し、それが自動で保存されるという仕組み。ネットのあれこれに不慣れな人でも電話をかけるだけで参加できるところがメリット。

最初にこのブログを読んだときは、お祝いの『メッセージ』を『伝える』ではなく、お祝いの『声』を『届ける』という表現の仕方がすごく素敵だと思ったのを覚えている。

「手書きのメッセージ」は不変のものとしてこの先も残り続けるけど、「声」というのはその時のその瞬間にしか存在しない。その時に届けられた「優しい声」や「涙ぐむ声」というのは、場合によっては話した内容以上の意味を持っていることだってある。そんな「おめでとう」をサプライズプレゼントされたら自分なら絶対に泣くほど嬉しい。

結婚式というエモーショナルなイベントの味付けにgeekな要素を入れているところ、かといって無駄にgeek臭を漂わせたものではなく、むしろエモーショナルな演出をさらに引き立てるものとして作られているところが個人的には本当に好きな感じで、いつか自分もこういったものを作りたいなとずっと思っていた。心からエンジニアをかっこいいと思ったし、自分もそういうことができるようになりたいと強く思った。

2013年、つまり4年前の自分はプログラミングを生物学の研究の道具として真面目に覚え始めて1年ほどの時で、しかも当時メインで使っていたのがPerlだったりしたものだからwebアプリ作成からは遠い世界だった。

そこから4年経って、Perlとはお別れしPythonと新たな生活を始め、開発環境やツールなんかも初心者が簡単に使えるものが劇的に増えたおかげで「今ならなんだか作れそうな気がする」という気持ちになっていた。

はじめてのアプリ作り

「祝電2.0」は誰かの結婚式の時にやろうとずっと狙っていて、加えてメッセージ協力を頼みやすい共通の友達が多い友人がいいなぁと思っていたところ、ちょうどいいところに大学時代からの盟友が結婚するとか言い出したので彼をターゲットにすることにした。

彼とは学生時代にイベントを一緒に企画したりしていたので共通の友人にも困らなそうだったことも大きい。昔からの恩を返すちょうどよい機会でもあったのでもうこれはもういっちょ本気でやって絶対に泣かせたろかいと勝手に誓ったのだった。

その後、結婚式二次会にはちゃんと招待してもらえることが決まって、結婚式の1ヶ月半前からアプリ製作を始め、一ヶ月前から友人各位にお祝いの録音をお願いする旨のポストをSNSにバラまいたり個別に連絡したりし始めた。

新婦さんとは面識がなかったこともあり、新婦側友人からメッセージを集めるのはそれなりに大変だったが、新婦側友人の方で二次会の幹事役もされていた方に新郎には内緒で連絡をとり、たくさん協力していただいたのでなんとかなった。こっそりとゴニョゴニョするのは元々得意。

アプリ作成は技術的にはそこまで難しくないものの、アプリ内で流す音声案内用の音源を自分で録って自分で聞いてみると、オレオレ詐欺の誘導電話みたいに聞こえて残念な感じだったので、件の幹事さんに紹介してもらって、新郎新婦の共通の友人で、素敵な声の女性に当て直してもらった。おかげで一気に素敵な感じになって詐欺未遂として怒られる心配はなくなった。

デジタルとアナログの境界

そんなこんなで、二次会当日までに国内外の友人方、ドッキリのさらに「隠しドッキリ」としてお願いしていた新郎新婦の親族様含めた60名を超える方々からの「お祝いの声」をいただき、刻印を入れた結婚式っぽい色のiPod Shuffleに音源を詰め込み無事に新郎新婦にお渡しすることができた。当初の目標の倍のメッセージ数になっていたのは新郎新婦の人徳の賜物。たぶん全部聞くだけで1時間を越えるんだけど。

届いたメッセージの頭とお尻に入る「えー」とか「以上です」みたいな単語をトリミングする作業のために一通り音源をチェックしたのだけど、原稿を用意してお祝い声を伝える人・替え歌でお祝いする人・夫婦漫談みたいなことをする人がいて、色んな人がいろんな方法で思い思いに「おめでとう」を伝える様子には胸がいっぱいになった。

メッセージの途中に声を詰まらせる方もおられ、その度に作業を中断してもらい泣きしていたのはここだけの秘密。途中から完全に「新郎新婦の親戚のおじさん」みたいな気分になってた。最終的には、このサプライズを受け取った新郎新婦も泣いてくれたらしいので当初の目標が達成され個人的には非常に満足(悪い顔してる)。

不思議な感覚だけど、例えばこれが「手書きのメッセージを集めて冊子にする」「撮った動画を送ってもらってそれをムービーに編集する」だと、もっと作業的にやっつけていたかもしれない。

音声だけを聞いていると、「この人はどんな顔の人だろう」「普段はどういうことを新郎新婦と話す人なんだろう」「どんなシチュエーションで録っているのだろう」と、メッセージを吹き込んだ人への興味が湧いてきて、編集作業自体も楽しむことができた。二次会会場で実際にメッセージを録ってくれた人と挨拶をした時は、「あのメッセージを入れた人がこの人か!」と一人で別の楽しみ方をしていたのだった。

もともとモノ作りやイベントの運営側など、何かを積み上げて形を作っていく事が好きなんだけど、こういったデジタルとアナログが交じる領域みたいなことをこれからももっとやっていきたいなぁと思った。時期的にもいろいろ大変だったけど、ちょうどこのタイミングで昔から思い入れのあったプロダクトをお祝いのついでに作ることが出来て嬉しい。

あと単純に、色んな人が「すごく良いですねコレ!」と褒めてくれたのが嬉しかった(結婚式会場のプランナーさんも褒めてくれた)。自分の”好き”が誰かの”嬉しい”になるならこれほど幸せなことはない。

余談

「今までにインターネットでみた記事で印象的だったものは何か」の他の回答として、2016年4月に書かれた「長年の友人が突然婚約者になる話」というこれまたすごく好きなブログ記事があって、この記事きっかけで灰色ハイジさんというデザイナーの方を知って、ハイジさんの文章や選ぶ言葉が好きで、それ以来すっかりファンなんだけど、なんとこの記事のタイトルで出てくる「長年の友人」で「今の旦那さん」となられた方が、「祝電2.0」元ネタを作成されたエンジニアメンバーhmskさんだったという衝撃。まさか数年越しでこういう繋がり方をするとはという感じで、画面を2度見した。

(一方的に)大好きなご夫婦で、いつもLine blogの「妻の様子です」シリーズの写真とかみて和んでいる。全く面識の無い方々なのだけど、自分にとっては(勝手に)更に思い出深いプロダクトになったのだった。

改めて

結婚式が終わってからもう1ヶ月も経つのだけど改めて、H&Yさん ご結婚おめでとう。何年か経って倦怠期とかいうものに入ったりしたら、是非また聞き直して新婚の頃を思い出したりすれば良いと思うよ!

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